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ロバーズChapter8 : 狂祭と揺心

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Chapter8 : 狂祭と揺心

 

タイチは左翼の拠点で過ごす日々を送りながら、周囲の情報を集めていた。ここでは、無法地帯が広がっている一方で、人々の口からは様々な噂が飛び交っていた。その中で最も目立っていたのが、左翼のヘッドを賭けたゲームの存在だった。

 

「ヘッドになるためのゲームがあるって聞いたことあるか?」とある日、不良風の男がタイチに声をかけてきた。その顔は歪み、目は血走っていた。彼の口からはアルコールと薬の匂いと共に、興奮と焦燥が混ざり合った声が漏れ出していた。

 

「ここにいる誰もが、ヘッドになりたくてウズウズしてんぜ。でもな、実際にそのポジションに立つことができるのは一握りの連中だけだぜ。それが、ヘッドを賭けたゲームなんだよ...」その男の話は、タイチの心に深い印象を与えるものだった。

 

しかし、そんなタイチの心の中には、同時に不信感も芽生えていた。その原因は、自身がここに来てから一切サポートがない右翼の連中の存在だった。

 

彼はここで数々の戦いを経験し、何とか生き残って来た。それなのに、自分の他に潜入している工作員が1人すらいない。その事実に、タイチは疑念を抱いていた。

 

「連絡が来たとはいえ、何故スリーパー1人すら居ないんだ...??俺がここにいるのは、あいつらのためだろ?なのに...」タイチはひとりで考え込んだ。

 

彼の心は不信感と疑念に満たされ、彼自身も次第に自身の立ち位置に疑問を抱き始めていた。そして、その感情は、次第に彼の行動に影響を及ぼし始めていた。

 

「アァ~!!!また全員参加者が死んじまったぜ!!!こりゃ、しばらくスローターの兄貴の地位は変わらずかなァ~つまんねネェ!!!」という野次馬らの声が聞こえてきた瞬間、タイチの興味は引き付けられた。左翼のヘッドについて、詳しい情報を得たいと思った彼は、その声の主たちに近づいた。

 

彼がその声を発したのは、ゴスロリ風の格好をした女性で、肩には大きな蛇を乗せていた。「おい、その話、詳しく聞かせてくれ」と、タイチは少々強引に話に割り込んだ。女性は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐにふてぶてしい表情に変わった。

 

「なんだおまえ? 知らない顔だな。まぁ、いいや。このゲーム、要するに我々左翼のヘッドを巡る争いなんだよ。参加者がヘッド、つまりクリムゾン・スローターを殺す...すなわち彼以上の力を示せば新たなヘッドになることができる。だが、なぁ...」彼女は少しだけ緊張感を帯びた様子で言葉を続けた。

 

「このゲーム、参加者が生き残ることはほぼないんだ。だからさ、スローターの地位が揺らぐことなんて、まぁないんだよ。だが、もしもお前が興味があるなら、自分の命を捧げる覚悟があるなら、挑戦する価値はあるかもね。」

 

彼女の言葉に、タイチは興味深げに聞き入っていた。確かに、ここにいるすべての者がその地位を狙っていることは理解できる。だが、生き残ることが難しいという事実を目の当たりにして、彼は自身の置かれた状況について考えずにはいられなかった。

 

「そうか...これが左翼の真実か...」と、タイチは独り言のようにつぶやいた。その表情は、次に何をすべきかを見つめる猛禽のように鋭く、そして冷たかった。

 

「...場所を教えてくれ。期待には答えるぜ...」タイチの淡々とした声が、まるで炎に燃えるようなそのゴスロリ女性に向けられた。

 

女性は少し驚いた様子でタイチを見つめ、一瞬その表情はほんのりと赤くなったかと思うと、すぐに再びあのふてぶてしい笑顔が戻ってきた。

 

「フフ、おまえ、生きて帰ってこれる自信があるのか? まぁ、どちらにせよ、私から試合の場所を隠す理由はないわ。」

 

彼女はその場にあった地図を引っ張り出し、その上に指を滑らせた。

 

「殺シアムはここよ。その大きな円形の建物。君が言う期待に答えられるかどうか、見ものね。」

 

「任せろ」とタイチは言葉を返すと、女性が示した殺シアムの方向に向かって一歩踏み出した。その歩みは確実で、見ている者全てに彼の揺るぎない決意を示していた。

 

そんな彼の背中を見つめながら、ゴスロリ女性は苦笑いを浮かべる。「やれやれ、また新たな犠牲者が増えちゃったみたいね...」彼女の声は小さく、まるで風に吹き飛ばされそうだった。

 

それでも、タイチは彼女の言葉を無視し、殺シアムへの道を進んでいった。その歩みは一歩一歩、困難な戦いへの挑戦を表していた。

 

---

 

「ウェルカムトゥ!!!デスクラッシュ殺シアム!!!ここガァ~!!!第一種目のプレーグラウンドだぜェ!!!」

 

MCの狂気じみた声がコロシアムを包み込んだ。その声は痛烈な高揚感を醸し出し、興奮に震える観客の期待を一層高めた。

 

一方で、その中に淡々と立っているタイチは、すべてを見渡しながら皮肉っぽく「こいつは、思った以上にヤバそうだな...」とつぶやいた。周囲の熱狂とは対照的に彼の顔には冷静さが宿っていた。

 

「さて、ここでルール説明だぜェ!!!」MCの声が再び響き渡る。

 

「簡単だァ。くじ引きで決めた車に乗って、それぞれ一対一で正面からクラッシュして、生き残った者が勝者だ!両者とも生き残った場合は降りて、お互い死ぬまで殴り合って決着をつけるんだぜェ!!」

 

その言葉に観客たちは一瞬息を飲んだ後、再び興奮の渦に巻き込まれた。その間、タイチは無言で観客たちを見渡し、そのルールを冷静に頭に叩き込んでいた。

 

死闘の幕開けが宣言され、タイチは一歩一歩、自身が選ばれた車に近づいていく。彼の目には、周囲の狂喜乱舞は映らず、ただひたすらに前途の厳しさだけが焼き付いていた。

 

車を見た瞬間、タイチの目が見るも無残な姿に歪んだ。「まさか!?アァ!?!?中国車じゃねぇか!!! 殺す気か?クソッタレ!!!」と唸り、彼の声はコロシアムに響き渡る。

 

対戦相手は筋骨逞しい肩幅広の男だった。その名も、ドクロマスクを被り口から黒い舌を出す、恐ろしげな姿からは狂気が漂っていた。

 

男は嘲笑いながら「ゲヘヘヘヘヘ!!! てめぇはこのプリウスファッキンロケットでぶっ殺してやるぜェ!!!」と高笑いした。

 

彼の乗るプリウスは、不自然に大きな排気口から火花を吹き出し、まるでロケットのような形状をしていた。

 

観客の興奮は頂点に達し、殺シアム中が大声援と歓喜の声で満たされた。一方、タイチは冷静さを保ちつつも、頭の中では車の性能や対戦相手の能力を考えることで勝利への道筋を探っていた。

観客の興奮は頂点に達し、殺シアム中が大声援と歓喜の声で満たされた。一方、タイチは冷静さを保ちつつも、頭の中では車の性能や対戦相手の能力を考えることで勝利への道筋を探っていた。

 

この戦いが始まる前に、タイチは既に生き残るための計画を練り始めていた。彼の目は対戦相手のプリウスをじっと見つめ、その中には覚悟と決意が濃厚に宿っていた。

 

タイチは深く吸い込むと息を静かに吐き出し、その中国車を見つめながら一人の独白を始める。

 

「中国車ってのァ、エンジンが運転席近く...すなわち前に付いてるモンだ…だから、衝突した瞬間爆発するから外に出る必要がある…シートベルトは付けれねぇ…」と、計算冷静な視線で情報を頭に叩き込む。衝突の瞬間、タイチは車から飛び出す予定だ。

 

一方、その対戦相手であるドクロマスクの男は、プリウスの運転席に座りながら、「んだァ??この複雑な設計は乗ったことァねぇからスタートの仕方が良く分かんねェ!!!」と、なんだかんだ言いながらも、楽しそうに興奮状態である。

 

車内をあたりまえのように殴り始めると、突然エンジンがかかる。大きな爆音とともに、火花を散らす排気口から煙が噴き出す。

 

それを見て観客はさらに熱狂し、男は自らの名を上げて大声で叫んだ。「さあ、始めようぜェ!!!」と、その声はコロシアム中に響き渡り、緊張と興奮が一気に高まった。それに対し、タイチはあくまで静かに、そして冷静に対峙する準備を整えていた。

 

その一方で、タイチの周りでは、一斉に他の参加者たちも車のエンジンをかけ始める。急速に高まるエンジンの音が殺シアムを揺るがし、エリア全体が怒号とエンジン音、そして待ち受ける死の予感で鳴り響いていた。

 

「ァアアアアアアアアア!!!!デストロイィイイイイイイ!!!!!」と、MCの絶叫が轟音の中から響き渡る。

 

その瞬間、地上の業火が解き放たれるかのような狂気と混乱が一瞬にして場を包み込む。

 

コロシアムは瞬く間にカオスと化し、殺戮の空気が濃くなった。一台一台の車が無秩序に動き出し、まるで野獣のように互いにぶつかり合っていく。車と車の衝突は一触即発の火花を散らし、その激しさは観客たちをさらに興奮させた。

 

一方、タイチは怒号とエンジン音、そして殺戮の予感が交錯する中で、なおも冷静さを保っていた。互いに衝突し、破壊し合う車たちの中、彼は次に何をすべきかを迅速に計算し、行動へと移していく。

 

状況は一瞬一瞬で変わり、生き残るためには臨機応変な判断と即座の行動が求められる。その中でタイチは、生き残るための戦術を練りながら、自身の車を操作していた。

 

男とタイチ、二つの車が迫る対決へのカウントダウンが始まる。心臓がバクバクと音を立てているように感じられる時間の進行の中で、両者は直視し合う。ヘッドライトが互いを照らし、映し出されるのはそれぞれの覚悟と恐怖だ。

 

そして遂に、その時が来る。男は叫びながらアクセルを踏み込み、タイチもそれに応じてアクセルペダルを踏み込む。車は勢いよく進み出し、二つの車はまるで猛獣のように互いに向かって進む。一瞬の静寂が訪れ、その次の瞬間には大爆発が起きる。

 

衝突の瞬間、タイチの車と男の車が一体となって大爆発を起こし、火の海が広がる。周囲の人々は一瞬、息を呑んでその光景を見つめ、続いて大歓声が上がる。

 

爆風が広がり、炎と煙が周囲を包み込む。コロシアム全体がその爆風に揺れ動き、地面には燃える車の残骸と爆風で吹き飛ばされた部品が散乱している。

 

その爆風と炎の中から、何とか車から脱出したタイチの姿が現れる。彼の体は火花と煙で覆われ、衣服は焼け焦げ、体は打撲と擦り傷で赤黒く染まっている。しかし、彼の目は依然として燃える決意を示していて、痛みに歯を食いしばりながらも立ち上がる。

 

その姿はまるで地獄から蘇った戦士のようだ。全てを賭けた彼の闘志が、この戦場に新たな熱を加えていく。

 

男の車は激しい炎に包まれ、彼の姿は完全に黒焦げになり、血が地面に流れていて周囲を真っ赤な海のようにしていた。息も絶え絶え、彼はなんとか這い上がり、タイチを見つめる。その瞳にはショックと不敵さ、そして絶望が混じっていた。

 

「な...ンで...てめぇは...生きてやがんだ...」男の声はひどくかすれており、それでもなお彼はタイチに挑発する。

 

タイチは一瞬、男の問いに黙り込む。そして、男の目を見つめて言った。「そんなの簡単だ。俺ァ地獄を受け入れてる、だから死なねェ。それだけさ。」

 

言葉を終えると、タイチは男に一発のマウントキックを繰り出す。その強烈なキックは男の身体を吹き飛ばし、彼の息の根を絶つ。観客たちが息をのんでその場面を見つめていた。

 

周囲の状況は地獄そのものだった。生き残った者たちは燃える車や残骸をよけながら戦っている。空気は焦げた金属やゴム、そして血の匂いで充満していた。人々の絶叫や怒号が混ざり合い、その上には歓喜と絶望が混ざった複雑な感情が渦巻いている。

 

タイチは、闘場の喧噪と混沌を背に、今刺し違えた対戦相手の遺体に近づいた。騒動の中心にいるにもかかわらず、彼の動作は鈍くもなく、また焦ってもいなかった。ふんわりと死の静寂に包まれた男の遺体に腰を下ろし、ゆっくりと彼の右手を持ち上げる。

 

その硬直した手の指を一本、へし折った。音を立てて折れるその瞬間、タイチの目には冷たさが宿っていた。男の遺体から指を取り、それを掌に握った。

 

その一部始終を、興奮と狂乱で満ちた観衆が見つめていた。死と直面する恐怖を胸に秘めつつ、興奮に震えていた。

 

タイチはその場を立ち去り、MCの元へ向かった。彼の声は大勢の声に埋もれそうになるが、それでも確かに響き渡る。

 

「おらよ、次の場所は何処だ??」

 

彼の手からは、対戦相手の指がMCに向けて突き出された。その姿は、残酷な闘いの勝者としての彼の存在を改めて証明するものだった。しかし、タイチ自身は何も感じていなかった。彼の中で一つの戦いが終わったとき、既に次の戦いに向けて準備が始まっていたのだ。

 

指を受け取ったMCは、狂気じみた喜びを口元に浮かべながら言った。「次は外だぜストレンジャー!!! 少しだけ時間があるからチッと休んでな。」

 

その言葉に、タイチは軽く頷いた。彼の顔には、疲労が見え隠れしていた。だが、その疲労よりも明確なのは彼の闘志で、これから続く闘いへの意気込みを物語っていた。

 

「他の参加者は、どうだ?」タイチの声は淡々としていて、その中には一切の情が含まれていなかった。彼が聞いていたのは、ただ冷静な情報だけだった。

 

MCは、タイチの問いに対し、猫を被ったような表情を浮かべながら答えた。「お前含めて1人以外ァ...全員死んだぜェ!!!ギャハハハハハ!!!」

 

MCの笑い声は、その場の雰囲気とは裏腹の明るさを放っていた。彼のその狂気じみた笑顔に対し、タイチの反応は淡々としていた。彼の視線は、すでに次の戦いに向けられていた。

 

タイチは、戦闘からの一時的な解放と共に、人間らしい感情を取り戻していた。殺シアムの喧噪が遠ざかり、戦闘の興奮から切り離されると、彼の内面の激情は緊張の解放と同時に噴出した。その場に膝をつき、顔を歪ませると、激しい嘔吐に見舞われた。

 

彼の体は、今まで抑えつけていたアドレナリンから解放され、その反動として生理的な反応を起こした。胃の中から込み上げてくるものを、彼は力なく地面に吐き出した。それは単なる嘔吐ではなく、今まで体験したことのないような痛みと絶望が混ざり合ったものだった。

 

そして、彼の心もまた、感情が溢れ出すことを止められなかった。無理に押し込めていた感情が一気に崩れ落ちると、彼の眼からは涙が溢れ、震える唇からは絶望的な悲鳴が漏れた。

 

その声は、彼自身の心の叫びであり、同時にこれまでの恐怖と絶望を一気に吹き出したものだった。彼の心が感じていた絶望は、その場に留まることなく、彼の全身を震わせ、地面に打ち付けられるほどの大声で号泣し始めた。

 

苦悩の中で泣き崩れるタイチを見つめ、群がる観衆たちは一種の狂喜に酔いしれていた。その中には、タイチの苦痛を嗜好品として享受する者もいた。

 

その異常な行為が彼らの興奮を増幅させ、手を伸ばして自己の欲望に身を委ねた。その結果、数名の観衆が自己の解放を求め、精液を地面に撒き散らした。

 

その光景は、戦闘場の地獄絵図としての異様さを一層際立たせた。

 

その異常な光景にさらされながら、タイチの心は過去の悲痛な記憶へと引き戻された。頭の奥底から、ネームレスによる裁判所でのテロ事件の記憶が再び蘇った。

 

その時の彼の無力さ、絶望感、そして助けられなかった仲間たちの悲痛な叫びが彼の心を襲った。

 

彼の仲間の一人であったカケルの声が彼の心に響き渡った。

 

「タイチ、まだ生きているのか? 俺たちを助けてくれなかったくせに…」

 

その言葉は、タイチの心をさらに深い苦悩へと引きずり込んだ。過去の罪悪感と現在の地獄絵図、その双方から襲いかかる絶望に、タイチはさらに激しく苦しむこととなった。

 

すでに闇が覆いかぶさった夜空の下で、タイチの苦悩は異常な歓喜を見つける群衆にとってさらなる興奮を煽った。その中でも、性的興奮を抑えきれずに肉欲のままに動き始めた数名の群衆たちが、タイチに近づいてきた。

 

彼らの目の前に現れたのは、力強さと哀れみが混ざり合ったタイチの姿だった。彼らは、抑えきれない性欲に駆られ、肉体を震わせながら勃起した陰茎を手に取り、タイチに迫ろうとした。

 

しかし、彼らの欲望が空振りに終わるのは必然だった。タイチは、一人の男が自分に近づいてきた瞬間、強烈な一撃を彼の下半身に繰り出した。その衝撃は、男の陰茎を粉砕し、彼を悶絶させた。

しかし、彼らの欲望が空振りに終わるのは必然だった。タイチは、一人の男が自分に近づいてきた瞬間、強烈な一撃を彼の下半身に繰り出した。その衝撃は、男の陰茎を粉砕し、彼を悶絶させた。

 

タイチは怒りに燃え、全身の筋肉を張り巡らせて彼らに向かって叫びつけた。「人に戻ってた大事なァ...大事なァ!!!時間を邪魔すンじゃねェ!!!」

 

その言葉は、彼の内に秘められた強大な怒りを世界に向けて放った。その一瞬で、タイチの周囲は一掃され、すぐさま静寂が訪れた。その強烈な怒りの波動は、欲望にまみれた群衆を一瞬で黙らせ、ただ一人立ち尽くすタイチの姿を彼らに焼き付けた。

 

タイチは冷たい汗を流しながら、ホッと息を吹き返した。手を自身の尻に持っていき、そっと撫でながら声に出して呟いた。

 

「危ねェ~!!!良かったぜ...俺の可愛いケツ処女チャンよォ...!!」

 

その表情は、それまでの彼の厳しい顔つきとは一変、少し緩んだ感じになっていた。それは一種のジョークのようなものだったが、彼自身、ほっとした気持ちと、少しの恐怖からくる冗談であることは明らかだった。

 

しかし、周りの空気は変わらなかった。緊迫した雰囲気は一瞬も緩むことなく、観衆もまた、タイチの笑いを狂気じみた眼差しで見つめていた。

 

その中には悪意も含まれていたが、それ以上に興奮と期待感がみなぎっていた。彼らの目は、タイチが次に何をするのか、どのような運命が待ち受けているのかを確認するかのように彼を見つめ続けていた。

 

この狂気と緊張感に満ちた場所で、タイチが放つ一瞬の笑いは、そのシリアスな雰囲気を一層際立たせ、彼の孤独と戦いを強調する結果となった。

 

まだ鮮烈な記憶として頭の中に刻まれていたMCの言葉を思い出すと、タイチは心の中で深く息をついた。

 

「第二種目は2時間後だぜストレンジャー!!!次は精々遺書でも書いてからくるんだな!!!ギャハハハハハ!!!」

 

それを思い出した彼は、疲れと空腹感に襲われ、目の前に見えたトルコ料理屋に足を向けた。

 

しかし、一瞬、彼は立ち止まった。思い出したのは...今の社会、金銭の価値が停止しているという事実だった。

 

だが、その心配はすぐに解消された。店の中に足を踏み入れると、ウェイトレスが微笑んで近づいてきた。

 

「闘技参加者の方ですね、どうぞ。」彼女の言葉には敬意と共感が混ざっていた。それは、彼女自身が過酷な現実を理解している証拠でもあった。

 

タイチは彼女の案内に従い、店の中へと進んだ。店内は温かな照明で照らされ、濃厚なスパイスの香りが漂っていた。彼はその独特な雰囲気に少し安堵し、一時的にでも自分の置かれた状況を忘れることができた。

 

タイチは、座敷の窓際の席に案内された。暖色系の照明がまばらについた店内は、あたたかく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。ウェイトレスがメニューを差し出すと、タイチは疲労感と空腹感を感じながらメニューを開いた。

 

彼の目を引いたのは、トルコの伝統料理であるケバブだった。また、サイドメニューとしてハムスとタブレも注文した。これらの料理は彼が過去に何度か経験したことがあり、口に合うことを知っていたからだ。その後、彼は飲み物としてチャイを頼んだ。

 

注文が完了すると、ウェイトレスは微笑みながら去っていった。それから数分後、彼の頼んだ料理が運ばれてきた。まずはハムスとタブレ、そして焼き上がったばかりのジューシーなケバブがテーブルに並べられた。

 

料理の香りを嗅ぎながら、タイチは一瞬、目を閉じて呼吸を深く吸った。そして、食事を始めた。ハムスはなめらかで風味豊か、タブレはフレッシュなハーブの香りが口いっぱいに広がり、ケバブはジューシーでスパイスの効いた味わいだった。

 

タイチはゆっくりと、一口ずつ食事を進めた。心地よい疲労感と食事の満足感が混ざり合い、彼の心は一時的な安堵に包まれた。食事の後、注文していたチャイを口に含むと、甘い香りとともにスパイシーな温もりが体を満たした。

 

彼はこの一時の休息を大切にした。これからの戦いに向けて、体力と心のエネルギーを回復させるためにも、必要な時間だった。一人の時間、それは彼にとって一瞬の平和だった。

 

タイチは、豊かな食事を楽しみながらも、周囲の雰囲気を感じ取るために常に繊細な警戒心を維持していた。その矢先、店内に突如として刺すような異様なオーラを感じた。その瞬間、彼の五感は一気にその方向に集中した。

 

彼が目を向けると、レストランの一角に背広を身にまとった大きな巨漢の男が立っていた。男はソリッドな体格で、その存在感は周囲に圧倒的な影を落としていた。彼の黒く濃い髪は後ろに掠めており、その顔は深い皺が刻まれた男性的なもので、彼の深い眼差しは周囲を見下ろしていた。

 

その男は、ブラックリストNo.15、クリムゾン・スローターとして恐れられていた。彼はその名前と、その暗黒の名声をまだ知らないタイチにとっては、ただの異常なオーラを持つ大男だった。しかし、その存在感はタイチを圧倒し、背筋に寒さを走らせるほどだった。

 

タイチはその巨漢を見つめ、彼の存在を自分の中に記憶した。この男が何者であるか、彼にとって何を意味するのかはまだわからない。しかし、タイチは直感的に彼が重要な存在であることを感じ取った。彼の警戒心は一層深まり、そのオーラに対する警戒感は彼の心の奥深くに刻まれた。

 

タイチが目を向けているその間、巨漢の男、スローターはじっと彼を見つめていた。その視線は鋭く、彼の無口な唇がゆっくりと開いた。

 

「お前が例の闘技者か...楽しみだ...」その深い声は、まるで遠雷のように静寂を切り裂いて響き渡った。その言葉が、突然のことに驚いたタイチの心を揺さぶった。

 

「何だ...」タイチは声を失い、その言葉が自分に向けられたことに驚きを隠せなかった。しかし、スローターの姿は既になく、そこには空虚な椅子と、彼がかつて座っていた証拠のみが残っていた。

 

「ぇ...」タイチが驚愕の声を上げると、店内は再び静まり返った。スローターの姿はどこにもなく、その存在感だけが残響として残されていた。あまりの事の急展開に、タイチは固まったままで立っていた。

 

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