Chapter1: 出会いと絆
カケルたちが初めて集まったのは、見捨てられたような廃墟と化した古い倉庫だった。壁はボロボロで、床は埃と時の経過を物語っていた。しかし、彼らにとっては初めての"基地"だった。
「うーん、まあ、いい感じじゃない？」ハジメはクスリと笑った。
「だって、ここなら警察に目をつけられることもないしね。」ショウタが続けた。
タイチは納得したようにうなずき、ユウタはただ静かに微笑んだ。
それから、彼らは自分たちの計画を立て始めた。誰が何をするか、どこで仕事をするか、どのように行動するか。彼らは何時間もかけて議論し、あらゆる角度から考え、最良の結果を目指した。
カケルは静かに立ち上がり、仲間たちを見つめた。「これから始まるのは、我々だけの戦争だ。俺たちがどれだけ強いか、どれだけ賢いかを示すための戦争だ。みんなが怖がっている世の中に、我々の存在を示すための戦争だ。」
彼の言葉に、仲間たちは頷いた。彼らの目は多少の戸惑いはあったが決意に満ちていた。
カケルは深呼吸をして、もう一度彼らを見つめた。「俺たちは一緒に戦う。そして、一緒に勝つ。だから、今日からは我々は家族だ。誰もが自分の役割を果たし、全力で行動する。それが、我々の誓いだ。」
「まずは我々の目標を明確にすることだ。」カケルは言った。「そして、それぞれが何をするべきかを決める。俺たちはチームだ。だから、全員が一致団結して行動することが大事だ。」
ハジメは優しく笑った。「カケル、お前のリーダーシップには感心するよ。」
その日、彼らは自分たちの能力と役割を話し合った。カケルはリーダーとして全体を監督し、ハジメはセキュリティーと盗みの計画を担当することになった。
ショウタは物資の調達を、タイチは情報収集を、ユウタは現場の探索を担当することとなった。
「それで、最初の標的は何にすべきだと思う？」ハジメが質問を投げかけた。
一瞬、静寂が広がった。それぞれが自分の頭の中で考えを巡らせていた。そして、カケルが口を開いた。
「最初の標的は、我々が退職したブラック企業だ。」彼の声は固く、決意に満ちていた。
一瞬の沈黙があった後、タイチが言った。「それはいい案だと思う。そこから始めるのは、なんだか詩的だよね。」
ユウタは穏やかに頷き、ショウタは「それなら全力でやろう。あのクソどもの驚く姿が楽しみさ。」と力強く言った。
ハジメが軽く笑って言った。「それじゃあ、我々の戦争の最初のステージは決まったね。まぁ、しくじらない様にやらなきゃだけど。」
「まず、建物の構造について話し合おう。」カケルが示した。
「ああ、俺が調べてきたよ。」タイチは言い、一枚の紙に書かれた建物の設計図をテーブルの上に広げた。
「ここには、エントランス、エレベーター、階段、そしてオフィスのレイアウトが全て描かれている。」
「防犯システムはどうだ？」ユウタが尋ねた。
「それが、ハジメの役目だろう。」カケルが答えた。
ハジメは頷き、言った。「既に調べてある。セキュリティカメラ、アラームシステム、そしてカードキー。しかし、それらをどうにかする方法も見つけた。」
「出入口は？」ショウタが質問した。
タイチが再度、設計図を指でなぞりながら答えた。「メインのエントランスと、裏口、それと緊急避難階段がある。俺たちは、これらの情報を使って、一番リスクが低く、かつ効率的なルートを選ぶべきだ。」
カケルは静かにうなずき、深呼吸をした。「それなら、それぞれが自分の役割を果たすことだ。全員が一丸となって、最善の結果を目指す。」彼らは彼の言葉に頷き、それぞれの目には固い決意が宿っていた。
「まず最初に、私たちはこの裏口から入る。」カケルが指を動かし、設計図の裏口の部分を指した。「ショウタ、それが可能だろうか？」
「物資を用意すれば可能だ。」ショウタが頷いた。「特に難しい閉鎖機構はない。」
「次に、ハジメ、防犯システムの無効化はどうだ？」
「セキュリティカメラとアラームシステムについては、短期間の無効化が可能だ。カードキーに関しては、少し時間がかかるかもしれない。でも、十分に対処できる。」ハジメは自信満々に答えた。
「さて、ここからが本格的な部分だ。」カケルは設計図のオフィス部分を指した。「我々の目的はこのフロアの金庫だ。」
ユウタが言った。「そこには警備員が常駐しているだろう。」
「その通り。だから、私たちは警備員のシフトの間に作戦を実行する。タイチ、それは君の担当だ。」
「了解、シフトパターンの情報は揃っている。」タイチが頷いた。
「最後に、脱出ルートだ。」カケルが図の緊急避難階段を指した。「ここを使って、建物から出る。その後、事前に用意した車で現場を離れる。」
全員が頷いた。作戦は詳細に練られ、準備は整った。
カケルが深呼吸をして、仲間たちを見渡した。「詳細な作戦会議の時間は、我々にはない。」彼の声は、深刻な現実を緊張感をもって伝えていた。
「我々には資金がない。だから時間もない。」ユウタが頷き、ショウタとタイチも同じようにうなずいた。
「それ故に、我々の最大の武器は、現地での臨機応変な行動だ。」カケルが指摘した。「それが、この強盗作戦の大筋だ。」
一同は深くその言葉を理解し、その重みを胸に刻んだ。彼らはその覚悟を固め、慌ただしい準備に取り掛かった。
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そして、作戦当日がやってきた。それは薄曇りの空が広がる、日常の一日と何も変わらない一日だった。しかし、彼らにとっては人生を変える第一歩の日だった。
「それでは、我々の戦争の第一歩、始めよう。」カケルの声は静かに響き、その中には揺るぎない決意が込められていた。
闇が彼らを包む中、作戦開始の瞬間が迫った。空気は緊張で張り詰めていて、息をするのさえも忘れそうだった。それぞれの心の中で、複雑な感情が渦巻いていた。
カケルは深呼吸をして、自分の心を落ち着かせた。
「始めよう。」
彼の声はかすかに震えていたが、それは怖さではなく、期待と興奮によるものだった。作戦開始の合図が鳴り響き、彼らの動きが始まった。
先頭に立ったのはタイチだった。彼は体育会系のノリで人気者だったが、その一方で機械いじりが得意な技術者でもあった。
彼の手には、プロでも難しいと言われる錠前の鍵を開ける特製の道具が握られていた。
警備カメラの盲点を見つけると、彼は身を低くして裏口に近づいた。
何もかもが自分の手の中にあるかのような感覚に包まれ、胸が高鳴った。
練習で何度も試していた動きは、もはや身体が覚えていた。鍵は音もなく開き、彼らは建物内に忍び込んだ。
次に動いたのはハジメだった。彼の世界は、電子工学という一つの専門領域で構成されていた。大学時代には多くの同級生が彼のテクニックをうらやむほどだった。
もしブラック企業に足を踏み入れず、正当な道を進んでいれば、きっと彼は成功したエンジニアになっていただろう。
彼の役目は、建物内のセキュリティシステムを無効化することだった。
そのためには、彼が手にしたデバイスが必要だった。そのデバイスは、電子工学の知識を駆使して自分で作り上げたものだ。
その手の内部には、世界が理解することのできない複雑な回路が存在していた。
冷たいメタルが指先に触れると、彼はゆっくりと息を吸い込んだ。
そして、指先がデバイスに触れ、指示を入力した。緊張が全身を包み、彼の心臓は激しく打ち鳴らされた。
一瞬、彼の視界が白く閃いた。それは、成功のサインだった。
彼の前に広がっていたディスプレイには、セキュリティシステムが一時的に停止したことを示すメッセージが表示された。
ハジメの顔には、満足感と安堵が同居していた。彼はゆっくりと立ち上がり、他のメンバーに合図を送った。
「頼んだぞ、タイチ。」彼の声は安定していたが、その中には紛れもなく興奮が潜んでいた。
タイチが先頭を切って進み始めた。彼らの目指す場所は、彼らが退職したブラック企業の心臓部、金庫のある部屋だった。
途中、セキュリティカメラや警備員を避けながら、彼らはゆっくりと進んでいった。
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同じ時間、暗い部屋の片隅で、一人の男が画面を前に凝視していた。無数の監視カメラが映し出す画像が、幾つものウィンドウで静かに動いている。その中心に映るのは、窃盗団の動きだ。
彼の目に映る映像は窃盗団が一歩一歩進む様子をリアルタイムで捉えていた。「奴らが来たようだ。」と彼は静かにつぶやき、指で画面を軽くたたいた。
画面に映る彼らの一挙手一投足が、彼の目には鮮明に映っている。「待ってろよ…」と、彼は独り言を呟いた。その言葉は部屋の中に響き渡り、その後は再び静寂が広がった。
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タイチが先頭を切り、他のメンバーがそれを追っていった。彼の眼光は鋭く、耳は緊張感からくるどんな微細な音にも敏感だった。
ここはかつて彼らが見下され、苦しめられた場所だ。今夜、その屈辱を晴らすために、彼らはここに立っていた。
ハジメの計画によれば、最短経路で金庫まで行くためには三つのセキュリティポイントを通る必要があった。
各ポイントでは、時間を正確に計り、タイミングを見計らって進む必要があった。
彼らは影から影へと移りながら進んでいく。一瞬も気を抜くことなく、絶えず周囲を警戒しながら。ここでの失敗は許されない。
"全員、オンポイント。" ハジメの声が耳元で響く。短くて冷静な声だが、その中には確固たる決意が含まれている。
彼らがここまで来るためには多くの試練を乗り越えてきた。それら全てがこの瞬間に結集する。
慎重に進み、彼らは最初のセキュリティポイントに到着する。脈打つ静寂。タイチは深呼吸を一つし、一瞬閉じた眼を開く。時間は来た。彼は手の平を開き、冷たい廊下の床に手をつく。
タイチが手を開き、冷たい廊下の床に触れると、ゆっくりと体を起こし、深呼吸をした。目の前には既に赤いレーザービームが渡っており、その微細な線が隠れたセンサーと結ばれ、侵入者の存在を捕捉する仕組みが張り巡らされていた。
“ハジメ、始めるぞ。”タイチの声が耳元のイヤピースを通じて静かに響き渡る。ハジメは素早くその声に反応し、手元の機器に手を伸ばす。
遠隔地から、ハジメはセキュリティシステムの一部をハッキングし、レーザーの頻度とパターンを解析し始めた。「準備完了。君の出番だ、タイチ。」
タイチは腹這いになり、レーザーの間隔とリズムを見つつ自分の体を滑り込ませるように動かした。繊細な動き、猫のような敏捷さで彼はレーザービームの間を這い進む。
他の三人も、タイチに続き、レーザーの間隙を縫って進んでいく。時間はゆっくりと進み、彼らは息をするのも忘れるほどの緊張感で満たされていた。
最後に、レーザーの領域から抜け出たタイチは、胸を叩く鼓動を感じながら安堵の息を吐き出した。「ハジメ、第一ポイントはクリアだ。次へ進む。」
しかし、その時だった。彼のイヤピースに流れ込んできたのは、ハジメの声ではなく、静寂を切り裂く警報の音だった。突如として赤い警報灯が廊下を照らし、彼らの視界を赤く染め上げた。
"何だ、これは？！" ユウタが慌てて声を上げる。警報音は廊下に響き渡り、彼らの心臓をドキドキと高鳴らせる。
それは、彼らが予想だにしなかった出来事だった。今までの計画、訓練、全てが一瞬で瓦解してしまう。しかし、彼らには逃げる選択肢はない。タイチは固く握った拳を緩め、目を閉じた。
このままでは、彼らの計画は水泡に帰してしまう。しかし、タイチは心に誓った。この場所で失敗するわけにはいかない。彼は深呼吸をし、再び冷静さを取り戻そうとした。
突然、コンクリートの壁から人影が現れ、窃盗団の前に立ちはだかった。それは大柄な男で、身に纏うのは緩やかなスーツ、その顔は、淡い照明の下で不気味に光っている黒いマスクで覆われていた。
腕時計のようなものを片手に持ち、他の手には、光を放つ棒が握られていた。
謎の男が一歩踏み出すと、全身から放たれる野獣のような気迫が空気を揺さぶった。光を放つ棒を手に取ると、それは一瞬で電流を帯びた蛇のように宙を舞った。男のステップはすばやく、その動きは猫のように瞬発力に富んでおり、全身が光の帯となって薄暗い廊下を照らした。
「一体、何者だ？」タイチの声が宙を切り裂く。しかし男は黙然として、まるで彼らを見下すかのように立っていた。全身を包む不穏なオーラは、胸に圧力を与え、息を詰まらせた。
再びユウタが叫んだ。"誰だ、お前は！"だが、男の口からは一切の言葉が出ず、ただ黒いマスクが彼らをじっと見つめていた。
そのまま、男は静かに前へと進み出る。その動きは猫のように軽やかで、一瞬のうちに間合いを詰め、電流を帯びた棒を振り回す。
彼のその行動は一瞬、時間を止めるかのようだった。
タイチは反射的に体を横にひねってその突進を避けると、直後に弾みをつけて右フックを放った。
だが男はすばやく身をひねり、タイチのフックをうまくかわした。
戦闘の激化する廊下。静寂と冷たさが支配していたその場所は、
一転して男と窃盗団との激しい戦闘の舞台と化した。
周囲の壁にはスパークが散り、廊下の床は戦闘の激しさを物語るかのように彼らの汗と戦闘の爪痕で覆われていった。タイチは深く息を吸い、男の次の動きに備える。
「くそ、強い…！」タイチが呟くと、残りのメンバーも状況を把握し、一斉に男に襲いかかった。しかし男は冷静に彼らの攻撃をかわし、一人、また一人と窃盗団のメンバーを跳ね除けていった。
一方、ハジメは無線通信を介してその様子を見守りながら、何とか警報を解除する方法を模索していた。セキュリティシステムは予想以上に高度で、すぐに解除することは難しそうだった。
男の攻撃は激しく、窃盗団のメンバー達は次々と翻弄されていった。電撃が駆ける棒が闪光を放ち、その光は男の異様なスピードと融合し、廊下に幻想的な光景を描いていた。
だが、その美しい光景は窃盗団にとっては恐怖そのものだった。
ショウタが男に接近し、力を込めてパンチを繰り出した。だが、男は軽々とそれをかわし、逆にショウタの腹部を電撃棒で叩いた。ショウタは痛みに顔を歪めながら、それでもなお男に立ち向かおうとした。
一方、ショウタは男の動きを見つめていた。彼の目は鋭く、男の動きをじっと見つめていた。
男の次の攻撃が始まると、タイチは直感に身を任せて反撃に転じた。彼の肉体は筋骨隆々とし、その力強さは何とも言えぬ迫力を持っていた。
男とタイチの戦闘は激しさを増すばかりだった。両者は互いに譲らず、必死になって互いを制しようとした。廊下には電撃の音が響き渡り、その光景はまるでサイバーパンクの世界のようだった。
ハジメの声が耳元に響く。「警報は解除した。しかし、警察が到着するまでに10分しかない。我々は速やかにケリをつけなければいけないよ。」
タイチはこの情報を静かに頭の中に入れ、それに合わせて動くことを決める。彼の目は未だ男を見つめており、迷うことなく彼は次の一手を打つ。
「分かった、ハジメ。俺がこの男を引きつけてる間に、お前たちは次のセキュリティに進んでくれ。時間がない、急いでくれ。」
そう伝えると、タイチは意気揚々と男に立ち向かう。その動きはまるで猛獣が獲物に襲いかかるような迫力だった。男もまた、タイチを見つめ、一瞬緊張が走る。
その間に、ハジメ、ショウタ、ユウタ、カケルは各々タイチの言葉に従い、次のセキュリティポイントへと急いだ。静かに、しかし確実に彼らは前進し、タイチの囮作戦を最大限に活用した。
廊下の奥で繰り広げられる男とタイチの戦闘、そして彼らが前進する中での緊張感。それはまるでチェスのように互いの動きを見つつ、自身の手を進める様子だった。
"くそっ、時間がない…"ハジメが声を絞り出す。しかし、その中には強い決意が響いていた。時間との戦い、そして目の前の敵との戦い。彼らはそのすべてを乗り越えることを誓い、一歩一歩前へと進んでいった。
カケルたちは慎重に彼らの次の目標地点へと進んでいった。その地点とは、企業の心臓部にも等しい、金庫が収納されている部屋だった。
金庫の前には強固なセキュリティが設置されており、手軽に破ることはできなかった。
「次はこっちだ…」ハジメはセキュリティのパネルに視線を落とすと、慎重にそれに触れた。
指先が滑らかにキーボードをなぞり、彼の瞳には確固たる決意が宿っていた。一方で、ショウタ、ユウタ、カケルは周囲を警戒し、隙を突かれないように見回していた。
セキュリティは複雑に絡み合った数字とコードで構成されており、平均的な人間には理解不能なものだった。
しかし、ハジメはその難解なコードを解読するのに長けていた。彼は深呼吸をしてから、指先を動かし始めた。
時間が経つにつれて、彼の動きは一段と速くなり、短時間である程度の解読を終えていた。
しかし、彼らの前にはまだ大きな壁が立ちはだかっていた。ハジメは眉をひそめ、前の警報で得た時間がここでも彼らを追い詰めていた。
「時間がない…ショウタ、ユウタ、カケル、僕がセキュリティを解除する間、周囲をしっかり見ていてくれ。」
その言葉に、ショウタ、ユウタ、カケルは頷き、彼らの任務は周囲を警戒することであり、ハジメを援護することだと改めて認識した。
ハジメがキーボードを打ち込む音と、周囲の静寂だけが部屋に響き渡る。だが、彼らは一瞬たりとも気を抜くことなく、それぞれの役割を全うしようとした。
彼らの前進は遅いかもしれない。しかし、確実に彼らは進んでいた。それはまさに彼らの信念と、窃盗団としての誇りを証明するかのようだった。
それぞれの役割を全うする一方で、新たな問題が彼らの前に立ちはだかった。ハジメの前のセキュリティは、彼が予想したよりもはるかに複雑だった。彼が目の前のパネルに表示される複雑な数字とパターンを解析するたび、新たな隠れたパターンが浮かび上がり、その全体像が見えない。
「こりゃ…難儀なパズルだ…」ハジメは小さく呟いた。
一方、ショウタとユウタは周囲を見回すと、その瞳が見つけたものはさらなる問題だった。
それは、先程までの警報で目覚めた警備ドローンだ。小さな飛行体は低い音を立てながら浮遊し、彼らの存在を察知すると、直線的に接近してきた。
「ハジメ、ドローンがこっちに来てる！」ユウタが声を上げた。
その言葉に、ハジメは慌てて顔を上げると、画面の上部に表示されたタイマーを見て目を見開いた。警察が到着するまでの時間は、あと5分しかなかった。
「くそ…時間がない。警察もそろそろこっちに来る。」カケルが、刻一刻と迫る時間に急ぎ足で言った。
タイチとの連絡は既に途絶えており、彼らは完全に孤立していた。しかし、彼らには引き返す選択肢はない。失敗するわけにはいかないという彼らの決意が、彼らを前進させ続けた。
一方で、新たな警備ドローンの脅威は増大し、その数は次第に増えていった。ハジメは焦燥感に駆られながらも、彼が得意とする複雑なパズルを解き続け、ショウタ、ユウタ、カケルはそれぞれがドローンからの攻撃をかわしながら、ドローンを無力化しようとした。
時間は残りわずか。その中で、彼らは一つになり、刻一刻と迫る時間に立ち向かっていった。
やがて無機質な機械音が聞こえ、ロックが解除されたことを確認した。
彼らはドローンの残骸の中、息を絶え絶えとさせながら目標としていたデータベースのドアの前に立った。
そのドアの向こうには、彼らがかつて悲鳴を上げながら働いていたブラック企業の全てが記録されていた。
ハジメは深呼吸をした後、データベースにアクセスするためのコードを打ち込んだ。
「データのダウンロード開始…これで俺たちの勝ちだ」ハジメの声は、その場の緊張をほぐすかのように響いた。
彼の指先は、確実にコードを打ち込み、不正行為、過酷な労働時間、違法な取引、その全てを公にするためのデータをダウンロードした。
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一方、タイチの戦いは終わりを迎えていた。男の連撃が彼のスタミナに堪えたのかタイチは床に倒れ胸を上下させていた。
時すでに遅し。
謎の男はタイチを引きずり、暗闇に消えていった。
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ハジメたちはデータのダウンロードを完了し、その情報をインターネット上にばら撒いた。それは瞬く間に広まり、企業の違法行為を全世界に知らしめることに成功した。
だが、彼らの心情は複雑だった。成功と引き換えに仲間を囮として、犯罪者となった彼らの心中は、混乱と悲しみでいっぱいだった。
そして、その数分後。警察が彼らの元へと到着した。ブラック企業の裏側を世界に知らしめた彼らは、警察に逮捕され、その場所を後にした。
"せめて…これが世の中を変えるきっかけになれば…" カケルは、逮捕される前にそう呟いた。
彼らの初挑戦はこれで終わり、しかし、彼らは己の身の可愛さよりもタイチの身を心配していた。
